第93回全国研究大会 開催報告

日本マネジメント学会 第93回全国研究大会 開催報告

                            第93回全国研究大会実行委員長 中央大学 砂川和範

 日本マネジメント学会第93回全国研究大会は、2026年6月26日(金)から28日(日)にかけて、中央大学茗荷谷キャンパスを会場に開催された。統一論題「共創する知の総和――学術と社会をつなぐ経営教育、新たな協働基盤の再構築」のもと、全国から約100名の参加者を迎え、三日間にわたって活発な議論が交わされた。開催直前には二つの台風の接近と地震により実施が危ぶまれる場面もあったが、参加者各位のご協力のもと、大過なく全日程を終えることができた。

 今日、大学は知の公共性と制度的持続可能性が同時に問われる歴史的な転換点に立っている。人口減少、財政制約、AIをはじめとする急速な技術革新、そして社会課題の複雑化は、大学経営とガバナンスの再設計を迫るとともに、知の生産と社会との関係そのものの再定義を不可避の課題として浮上させている。本大会が掲げた「知の総和」という理念は、大学内部に閉じた専門知の蓄積ではなく、産業界・地域社会・行政・市民といった多様な主体に分散する知識と経験を接続・統合し、新たな価値創造へと転換する知の編成原理を問うものであった。教育中心の第1世代、研究中心の第2世代、産学連携を担う第3世代を経て、大学・企業・政府・市民社会が協働する第4世代の大学が構想されつつある今日、この問いは時宜を得たものであったといえる。

会 場となった茗荷谷キャンパスは、開設から三年目を迎えたばかりの新しい拠点である。都心に構えられたこの学び舎は、これからの中央大学の教育のかたちを映す場でもあり、真新しい校舎に全国から多くの研究者を迎えられたことは、開催校にとっても大きな喜びであった。統一論題を体現するにふさわしい舞台のもとで、本大会は幕を開けた。

 初日の6月26日(金)には、日本橋茅場町のベンチャーキャピタル・KUSABIへの企業見学を実施した。ベンチャーキャピタルおよびアクセラレーションプログラムの運営に携わる同社を訪ね、スタートアップ支援の現場と学術的知見とを架橋する機会を得たことは、学術と社会の協働という本大会のテーマを、実践の側から照らし出す試みでもあった。参加者は、投資と育成が交差する現場の緊張感に直接触れ、机上の議論には収まらない知の生成の場を体感した。

 二日目の27日(土)には、統一論題セッション「知の制度と大学ガバナンス」を中心に据えたプログラムが展開された。渡部直樹氏(慶應義塾大学)は「大学のサステナビリティ――教育と経営の視点から」と題し、大学という制度の持続可能性を、教育の理念と経営の現実という二つの視点から問う視座を提示した。糟谷崇氏(環太平洋大学)は「ニュージーランド・岡山・東京をつなぐ環太平洋大学構想――One IPU の実践」として、国境と地域を横断しながら一つの教育理念を実装する大学経営の実践を報告し、グローバルとローカルを架橋する具体的な事例を示した。佐藤信行氏(中央大学副学長)は「中央大学における社会連携の取り組み」を通じて、開催校自身が地域・産業・行政とのあいだに築いてきた協働の実際を論じ、理念が制度として結実する過程を明らかにした。

 続くパネルディスカッションでは、佐々木利廣氏(京都産業大学)を代表質問者に迎え、三報告を貫く「知の制度と大学ガバナンス」という主題が立体的に浮かび上がった。教育と経営、理念と実践、グローバルとローカルといった複数の緊張関係が交差するなかで、統一論題の核心に迫る議論が交わされ、大学という制度の再設計をめぐる問いが多角的に検討された。

 午後には国際セッションが開かれ、Won-il Lee氏がイノベーション・クラスターにおける企業の技術経営と資源配分、およびそこにおける大学の役割について報告した。続く特別講演では、ロンドンからオンラインで招いたRonald Barnett氏(University College London)が「Civic, Global, Ecological: Towards a Collaborative Mission for the University」と題して登壇し、市民的・地球的・生態的という三つの位相から大学の使命を捉え直す構想を提示した。大学のあり方を国際的かつ理論的な射程において再照射するこの講演は、本大会のテーマに広やかな地平を開くものとなった。

 三日目の28日(日)には、昨年に続き、今年は東京の地に招いた毛利就慶氏(徳山毛利家第14代当主)による特別講演「毛利家 元就〜幕末まで――統治、教育、人材による勝ち残りの戦略」が行われた。戦国から幕末に至る一族の存続の歴史を、統治・教育・人材育成という視点から読み解くこの講演は、経営と組織の持続可能性という現代的な問いに、数百年の時間軸から光を当てるものであった。あわせて開かれたブラウンバッグ・ランチ・ミーティングでは、昼食を交えながら、研究・教育・キャリア・学務をめぐる大学教員の働き方と処遇について、世代間・大学間の率直な対話が交わされた。同時間帯に三会場で並行して行われた自由論題セッションでは、イノベーション研究、経営理念、地域産業、企業家行動など多岐にわたる研究報告がなされ、若手研究者を含む活発な質疑が続いた。

 本大会の特色の一つは、その国際性にあった。国際セッションで講演したWon-il Lee氏をはじめ、韓国から参加した研究者を迎え、国境を越えた対話の場を持ちえたことは、「共創する知の総和」という統一論題の理念を具体的に体現するものであった。二日目夕刻に学生食堂で催された名刺交換会(懇親会)では、大学や世代の壁を越えて、所属も世代も国も異なる参加者が和やかに歓談し、セッションの緊張がほどけたのちの交流が遅くまで続いた。大学間・世代間の対話という本大会のもう一つの願いは、公式のセッションのみならず、こうした非公式の場においてこそ最も自然なかたちで結ばれていたように思われる。知の総和とは、報告と討論の場だけでなく、こうした人と人との出会いのなかに静かに醸成されるものなのかもしれない。

 統一論題が掲げた問い――知の公共性はいかに担保されるのか、学術の自律性と社会的責任はいかに両立しうるのか、そして評価やアカウンタビリティの制度は共創的な知の編成とどのように関係づけられるべきか――は、三日間の議論を通じて一つの結論に収斂するものではなかった。むしろこれらの問いは、多様なアクターの協働のなかで問い続けられるべき主題であることが、あらためて浮き彫りとなった。その意味で本大会は、答えを提示する場であるよりも、これからの学術公共圏を構想するための問いを共有する場であったといえる。

 末筆ながら、ご登壇いただいた講演者・報告者・座長・パネラーの各位、遠路ご参加くださった会員の皆様、韓国からお越しくださった研究者の方々、そして準備から当日運営までを支えた実行委員および中央大学の職員・学生スタッフに、記して深く感謝申し上げる。茗荷谷の地で交わされた対話の余韻が、それぞれの研究と教育の現場へと持ち帰られ、次なる協働の芽となることを願ってやまない。

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