駒澤大学 村山元理
2026年7月5日(日)13時15分から17時50分まで、駒澤大学駒沢キャンパス第二研究館209教場において、2026年度第1回関東部会・第1回経営理念研究部会合同部会が開催され、約20名が参加した。関東部会副部会長・山中伸彦氏(立教大学)の開会挨拶の後、3件の報告が行われた。以下、その概要を報告する。
【報告】(関東部会)
報告者:萩野紀之氏(聖学院大学)・手塚貞治氏(國學院大学)
テーマ:「日本におけるインキュベーターとアクセラレーターの変遷」
座長:仁平晶文氏(拓殖大学)
要旨
近年、ビジネスコンテストの急増などによりスタートアップ業界は活況を呈している一方で、インキュベーターが増加していないのはなぜかという問題意識のもと、本報告が行われた。
インキュベーターは1990年代に設立が進み、2000年代初頭にはブームとなった。若い企業に対して創業支援、経営支援、資金調達支援などを行う公的な施設提供者として期待されたものの、その多くは十分な成果を上げられなかった。一方、2010年前後からは創業支援プログラムの運営主体としてアクセラレーターが登場し、2018年には経済産業省が「J-Startup」を、2019年には内閣府が「スタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」を開始した。現在、日本には5つのタイプのアクセラレーターが存在し、短期集中型、コホート制、ビジネスモデルの構築、選抜制を特徴として、教育システム、メンタリング、ネットワーキングなどの機能を担っている。
本報告では、アメリカと日本におけるインキュベーターおよびアクセラレーターの変遷を概観するとともに、その定義と区別、日本におけるインキュベーター・アクセラレーターの類型、アクセラレーターの特徴とその検証、さらに本報告の主張と限界、今後の展望について論じられた。
その結果、アメリカのアクセラレーターは本来「投資収益を目的とするビジネスモデル」であるのに対し、日本の多くのインキュベーターは必ずしも投資収益を目的としていないものの、コーエン(2014)が定義するアクセラレーターの特徴を備えており、両者を明確に区別することの意義は薄れつつあることが示された。
また、日本には約300のインキュベーターが存在するとされ、その多くは研究開発型であるものの、アクセラレーション・プログラムを導入していると断定できる十分なエビデンスは確認されていないことが指摘された。
さらに、日本では「投資収益を目的としないビジネスモデル」を採用する企業が運営するアクセラレーターが最も多く、このタイプはアメリカにも存在することが確認された。これはコーエンの定義とは一致しない点であり、日本には約130のアクセラレーターが存在し、そのうち投資収益を目的とするものは約1割程度であると推定された。
【特別講演1】(経営理念研究部会)
講師:鷲谷佳宣氏(慶應義塾大学)
テーマ:「経営理念研究と社会実践の往還」
座長:村山元理氏(駒澤大学)
要旨
本講演では、2025年に博士(システムデザイン・マネジメント学)の学位を取得し、大学において教育・研究活動にも携わる鷲谷佳宣氏が、実務と研究を往還しながら取り組んできたデザインマネジメントおよび組織マネジメントの研究について講演した。鷲谷氏は、化学・印刷分野における研究開発や営業を経験した後、デザインや印刷に関わる企業において、技術、営業、マネジメントなど幅広い実務に携わってきた。こうした実務経験を背景として、経営学およびシステムデザイン・マネジメント学の研究を進め、実践の中で生じた課題を研究として捉え直す活動を続けてきたことが紹介された。その間、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科において修士課程・博士課程で研究を進め、2025年に博士(システムデザイン・マネジメント学)の学位を取得した。博士論文の題目は「デザイナー組織におけるチームワーク向上メカニズムの解明と改善手法の開発」である。
公開されている論文要旨によれば、本研究は、デザイナー組織において、創造的な専門性の発揮とチームワークの向上をどのように両立させるかという課題に着目したものである。
従来、デザイナー組織では、個人の専門能力や創造性を発揮することと、組織としての協働やチームワークを高めることは、相反するものとして捉えられる傾向があった。そのため、チームワークを高めることによって個人の創造性や専門性が阻害されるのではないかという懸念から、組織的な改善が十分に進められない場合があった。また、既存のチームワーク研究は、一般的な組織や定型的な業務を対象としたものが多く、創造的な実践を担うデザイナー組織における専門性と協働の関係を、必ずしも十分に説明できていないという課題があった。
これに対し、本研究では、組織行動論、デザインマネジメント研究、プロフェッショナル組織研究の知見を踏まえ、質問紙調査による量的研究とインタビュー調査による質的研究を組み合わせた混合研究法を採用し、デザイナー組織におけるチームワーク向上のメカニズムを多面的に検討した。
その結果、創造的な専門性の発揮に関わるタスクワークと、協働や学習に関わるチームワークを対立的に捉えるのではなく、両者を統合的に捉える視点が提示された。また、リーダーシップ、フォロワーシップ、方針共有などの要素が、デザイナー組織のチームワークや成果にどのように関係するかを検討するとともに、これらを向上させるための具体的な教育・介入手法が提案された。
本研究は、既存のチームワーク理論をデザイナー組織の文脈に適用し、創造性を重視する専門職組織における専門性と組織的協働の両立について、理論面と実践面の双方から示唆を提示したものと位置付けられる。さらに、経営理念の浸透や方針共有に関する実践研究では、パターン・ランゲージを分析手法として活用し、組織の理念や価値観について、参加者同士が対話し、具体的な実践知として共有する取り組みについても紹介された。これは、経営理念を一方的に伝達するのではなく、構成員自身が理念の意味や実践方法を考え、共有することを通じて、方針共有や理念浸透を促進しようとする実践的なアプローチである。
また、学位審査では、研究成果について英語によるプレゼンテーションおよび質疑応答が行われた。講演翌日には、台湾で開催される国際学会において、英語による研究発表を予定していることも紹介され、研究成果を国内外に発信する継続的な活動についても言及された。 本講演は、企業における実践上の課題を研究課題として捉え、研究によって得られた知見を再び組織の実践へ還元するという、実践と研究の往還の過程を示す内容であった
【特別講演2】(経営理念研究部会)
講師:齊藤毅憲氏(横浜市立大学名誉教授)
テーマ:「老経営学者の絵本がたり」
司会:村山元理氏(駒澤大学)
要旨
齊藤毅憲氏は、日本経営教育学会の創設期から運営に携わり、常任理事、関東部会長、経営教育問題部会長、機関誌編集委員などを歴任したことを紹介した。また、自ら創設に関わった全国ビジネス系大学教育会議について、第43回全国研究大会が本年8月23日・24日に明治大学で開催予定であることにも言及した。
本講演では、2026年4月に刊行した著書『老経営学者の絵本語り―仕事・生活・人生』(文眞堂)の内容を中心に、自身の研究・教育活動を振り返りながら、絵本を通して仕事、生活、人生、経営理念について考える視点が示された。あわせて、立教大学で開催された大会で、「自分ごと」として物事を捉えること、すなわち山城章のいう「ワガコト」の重要性を強調したことにも触れた。
2008年に横浜市立大学を65歳で定年退職した後は関東学院大学へ移籍するとともに、横浜市立大学では特別契約教授として教育・研究を継続した。2013年に関東学院大学を退職し、その後も代講などを担当しながら、2015年に大学での教育活動を終えた。73歳を迎えたことを契機に、「学者の仕事は書くことである」との考えのもと、毎年1冊の著作を刊行することを目標に定めたという。その成果の一つとして、学史研究の立場から『Y専(横浜市立横浜商業専門学校)の歴史―横浜市立大学の源流』(2021年)を刊行したことが紹介された。
さらに、教科書の執筆を通じて「生き学」としての経営学やキャリア教育を探究してきた経緯を述べるとともに、妻が所蔵する「マーガレット文庫」の絵本コレクションを契機として、絵本を新たな研究対象とするに至ったことが紹介された。仕事、生存・存続、モチベーション、イノベーション、協働などをテーマに毎年研究成果をまとめ、それらを集大成したものが今回の著書である。
講演では、その一例として、第3章「家事と生活の自立―『おさらを あらわなかった おじさん』をめぐって」が紹介された。この章では、経済的自立、家事能力、ファミリーレス(単身者)、男性の生活的自立、行動の習慣性などの観点から絵本を分析し、現代社会における男性の家事力や生活的自立の重要性について論じている。
また、経営理念研究の観点から、絵本はケース教材としても活用可能であることが示された。生存・存続の困難さ、働いても貧困から抜け出せない現実を踏まえながら、情報への適切な対応、過度な欲を持たないこと、約束を守ることなどを人生の教訓として提示した。さらに、一人勝ちを目指すのではなく、成果を分かち合い、利他の精神を持ち、働き手のいない家庭にも成果を分配することや、小さな力を結集して協働することの重要性が強調された。
最後に、自身が40代で著した「人生80年時代」では、60歳以降を「冬」と表現したものの、実際に60歳を迎えた経験を踏まえ、「60歳以降は長い実りの秋である」と考えを改めたことが語られた。そして、今後も書き残すことが自身の使命であるとの考えをもって講演を締めくくった。
齊藤毅憲(2024)「「実践経営学」への私の旅路(5)―「生き学」経営学の模索をめぐってー」 『横浜 市立大学論叢 社会科学系列 2023年度』Vol.75 No.2・3, p.15-54.
